Provided by: manpages-ja_0.5.0.0.20180315+dfsg-1_all bug

名前

     acl — アクセス制御リスト (Access Control Lists)

説明

     この man ページは POSIX アクセス制御リストについて説明している。 ACL はファイルとディレクトリに対して、 よ
     り洗練された任意アクセス権 (discretionary access right) を 定義するのに使われる。

ACL タイプ

     全てのオブジェクトは、そのオブジェクトに対する任意のアクセスを決定する ACL に関連付けられていると考えること
     ができる。 この ACL はアクセス AC と呼ばれる。 これに加えて、ディレクトリに関連付けられた ACL がある。 この
     ACL はディレクトリ内で作成されたオブジェクトの 最初のアクセス ACL を決定する。 この ACL はデフォルト ACL と
     呼ばれる。

ACL エントリ

     ACL は ACL エントリの集合で構成される。 ACL エントリは、それが関連付けられたオブジェクトの アクセス許可
     (permission) を指定する。 アクセス許可は、個々のユーザまたはユーザのグループに対する 読み出し・書き込み・検
     索/実行の許可の組み合わせである。

     ACL エントリには、エントリタグ型・ オプションとしてのエントリタグ修飾子 (qualifier)・許可の集合が含まれる。
     ここでは、修飾子という単語を ACL エントリのエントリタグ修飾子を表すのに使う。

     修飾子は、ACL_USER または ACL_GROUP というタグ型のエントリに対して、 それぞれユーザまたはグループの識別子を
     表す。 ACL_USER と ACL_GROUP 以外のタグ型のエントリは、 定義された修飾子を持たない。

     以下のエントリタグ型が定義されている:

           ACL_USER_OBJ    ACL_USER_OBJ エントリはファイル所有者に対するアクセス権を表す。

           ACL_USER        ACL_USER エントリはエントリの修飾子で識別されるユーザに対するアクセス権を表す。

           ACL_GROUP_OBJ   ACL_GROUP_OBJ エントリはファイルグループに対するアクセス権を表す。

           ACL_GROUP       ACL_GROUP エントリはエントリの修飾子で識別される グループに対するアクセス権を表す。

           ACL_MASK        ACL_MASK エントリは ACL_USER, ACL_GROUP_OBJ, ACL_GROUP 型のエントリで 許可される最大
                           のアクセス権を表す。

           ACL_OTHER       ACL_OTHER エントリは ACL における他のどのエントリともマッチしない プロセスのアクセス
                           権を表す。

     アクセスチェックが実行される場合、実効 (effective) ユーザ ID に対して ACL_USER_OBJ と ACL_USER エントリがテ
     ストされる。 実効グループ ID は、全ての補助 (supplementary) グループ ID と同様に、 ACL_GROUP_OBJ と
     ACL_GROUP エントリに対してテストされる。

有効な ACL

     有効な ACL には ACL_USER_OBJ, ACL_GROUP_OBJ, ACL_OTHER タグ型のうち 何れか 1 つだけのエントリが含まれる。
     ACL_USER と ACL_GROUP タグ型のエントリは、 0 回以上 ACL に出現することができる。 ACL_USER または ACL_GROUP
     タグ型のエントリを含む ACL は、 ACL_MASK タグ型のエントリを 1 つだけ含まなければならない。 ACL_USER または
     ACL_GROUP タグ型のエントリが ACL に含まれない場合、 ACL_MASK エントリはオプションである。

     全てのユーザ ID 修飾子は、ACL_USER タグ型の全てのエントリにおいて 一意でなければならない。 また全てのグルー
     プ ID 修飾子は、ACL_GROUP タグ型の全てのエントリにおいて 一意でなければならない。

     acl_get_file() 関数は、ディレクトリにデフォルト ACL が関連付けられていない場合、 ディレクトリのデフォルト
     ACL として、 ACL エントリが 1 つも 含まれない ACL を返す。 acl_set_file() 関数も、ACL エントリが 1 つも含ま
     ない ACL を、 ディレクトリに対する有効 なデフォルト ACL として受け付ける。 このような ACL はディレクトリに
     デフォルト ACL を関連付けないことを表す。 これは acl_delete_def_file() 関数を使うのと等価である。

ACL エントリとファイル許可ビットの対応

     ACL で定義される許可は、ファイル許可ビットで指定される許可の上位集合 (superset) である。

     ファイルの所有者、グループ、その他のユーザに対する許可 (permission) と特定の ACL エントリには対応関係があ
     る。ファイル所有者に対して定義される許可は、 ACL_USER_OBJ エントリの許可に対応する。 ACL に ACL_MASK エント
     リがある場合、ファイルグループに対して定義される許可は、 ACL_MASK エントリの許可に対応する。 ACL に
     ACL_MASK エントリがない場合、ファイルグループに対して定義される許可は、 ACL_GROUP_OBJ エントリの許可に対応
     する。その他のユーザに対して定義される許可は、 ACL_OTHER_OBJ エントリの許可に対応する。

     ファイルの所有者、グループ、その他のユーザに対する許可は、対応する ACL エントリの許可と常に一致する。ファイ
     ル許可ビットを変更すると、関連付けられた ACL エントリが変更される。 ACL エントリの許可を変更すると、ファイ
     ル許可ビットが変更される。

オブジェクトの作成とデフォルト ACL

     ファイルオブジェクトのアクセス ACL は、 creat(), mkdir(), mknod(), mkfifo(), open() 関数のいずれかでオブ
     ジェクトが作られたときに初期化される。 デフォルト ACL がディレクトリと関連付けられている場合、 ファイルオブ
     ジェクトを作成する関数の mode 引き数とディレクトリのデフォルト ACL を使って、 新しいオブジェクトの ACL が決
     定される:

     1.   新しいオブジェクトは、それが含まれるディレクトリのデフォルト ACL を アクセス ACL として継承する。

     2.   ファイル許可ビットに対応するアクセス ACL エントリが修正され、 mode 引き数で指定されていない許可ビット
          を含まないようにされる。

     ディレクトリにデフォルト ACL が関連付けられていない場合、 ファイルオブジェクトを作成する関数の mode 引き数
     とファイル作成マスク (umask(2) を参照) を使って、新しいオブジェクトの ACL が決定される:

     1.   新しいオブジェクトには、タグ型 ACL_USER_OBJ, ACL_GROUP_OBJ, ACL_OTHER の エントリを含むアクセス ACL が
          割り当てられる。 これらのエントリの許可は、ファイル作成マスクで指定された許可に設定される。

     2.   ファイル許可ビットに対応するアクセス ACL エントリが修正され、 mode 引き数で指定されていない許可ビット
          を含まないようにされる。

アクセスチェックアルゴリズム

     プロセスは、ACL で保護されたファイルオブジェクトに対して、 読み出し・書き込み・実行/検索を要求することがで
     きる。 アクセスチェックアルゴリズムは オブジェクトへのアクセスを許可するか否かを決定する。

     1.   If プロセスの実効ユーザ ID がファイルオブジェクト所有者のユーザ ID と一致する。 then

              if 要求された許可が ACL_USER_OBJ エントリに含まれるならば、アクセスは許可される。

              else アクセスは拒否される。

     2.   else if プロセスの実効ユーザ ID が ACL_USER 型の何れかのエントリの修飾子と一致する。 then

              if 一致した ACL_USER エントリと ACL_MASK エントリに 要求された許可が含まれるならば、アクセスは許可
              される。

              else アクセスは拒否される。

     3.   else if プロセスの実効グループ ID または何れかの補助グループ ID が、 ファイルグループまたは ACL_GROUP
          型の何れかのエントリの修飾子と一致する。 then

              if ACL が ACL_MASK エントリを含む。 then

                  if ACL_MASK エントリおよび一致する ACL_GROUP_OBJ または ACL_GROUP エントリの  何れかに、要求さ
                  れた許可が含まれるならば、アクセスは許可される。

                  else アクセスは拒否される。

              else (ACL_MASK エントリを含まない ACL_GROUP エントリは存在しない点に注意すること)

                  if ACL_GROUP_OBJ エントリが要求された許可を含むならば、アクセスは許可される。

                  else アクセスは拒否される。

         4.   else if ACL_OTHER エントリが要求された許可を含むならば、アクセスは許可される。

         5.   else アクセスは拒否される。

ACL テキスト形式

     ACL を表現するために長いテキスト形式と短いテキスト形式が定義されている。 両方の形式において、ACL エントリは
     コロン区切られた 3 つのフィールド、 ACL エントリタグ型・ACL エントリ修飾子・任意のアクセス許可で表現され
     る。 1 番目のフィールドは以下のエントリタグ型キーワードの何れかを含む:

           user    user ACL エントリは、ファイル所有者 (エントリタグ型 ACL_USER_OBJ) と 指定されたユーザ (エント
                   リタグ型 ACL_USER) に対して 許可されるアクセスを指定する。

           group   group ACL エントリは、ファイルグループ (エントリタグ型 ACL_GROUP_OBJ) と 指定されたグループ
                   (エントリタグ型 ACL_GROUP) に対して 許可されるアクセスを指定する。

           mask    mask ACL エントリは、ファイル所有者に対する user エントリと other エントリを除く、 全ての ACL
                   (エントリタグ型 ACL_MASK) に対して許可されるアクセスのうち 最大のものを指定する。

           other   other ACL エントリは、どの user ACL エントリにも group ACL エントリにもマッチしない (エントリ
                   タグ型 ACL_OTHER) の プロセスに対して許可されるアクセスを指定する。

     2 番目のフィールドは、 エントリタグ型 ACL_USER または ACL_GROUP のエントリの場合、 ACL エントリに関連付けら
     れているユーザまたはグループ識別子を含む。 その他のエントリの場合、このフィールドは空になる。 ユーザ識別子
     はユーザ名でも 10 進数のユーザ ID 番号でもよい。 グループ識別子はグループ名でも 10 進数のグループ ID 番号で
     もよい。

     3 番目のフィールドは任意のアクセス許可を保持する。 書き出し・読み込み・検索/実行の許可は、 r, w, x という
     文字でこの順番で表される。 ACL エントリにこれらの許可がない場合、各文字は - 文字で置き換えられる。 テキスト
     形式から内部表現に変換する場合、 保持していない許可は指定する必要がない。

     各 ACL エントリの始めと終わり、そして フィールド区切り文字 (コロン文字) の直前と直後には、 空白を入れること
     ができる。

   長いテキスト形式
     長いテキスト形式では、1 行に 1 つの ACL エントリを保持する。 さらにナンバー記号 (#) でコメントを開始するこ
     とが可能で、行の終りまでがコメントになる。 ACL_MASK エントリに含まれない許可が ACL_USER, ACL_GROUP_OBJ,
     ACL_GROUP ACL エントリに含まれる場合、 そのエントリの後にはナンバー記号と文字列 “effective:” と そのエント
     リで定義される実効アクセス許可が続く。 以下は長いテキスト形式の例である:

           user::rw-
           user:lisa:rw-         #effective:r--
           group::r--
           group:toolies:rw-     #effective:r--
           mask::r--

           other::r--
   短いテキスト形式
     短いテキスト形式は、コンマで区切られた ACL エントリの並びであり、 入力として使われる。 コメントはサポートさ
     れていない。 エントリタグ型キーワードは省略されない完全な形式でも 1 文字の省略形でも指定できる。 user の省
     略形は u, group の省略形は g, mask の省略形は m, other の省略形は o である。 許可には、 r, w, x という文字
     のうち 1 つ以上を、任意の順番で含めることができる。 以下は短いテキスト形式の例である:

           u::rw-,u:lisa:rw-,g::r--,g:toolies:rw-,m::r--,o::r--
           g:toolies:rw,u:lisa:rw,u::wr,g::r,o::r,m::r

理論的根拠

     IEEE 1003.1e draft 17 は、 タグ型 ACL_MASK のエントリを含むアクセス制御リストを定義しており、 画一的ではな
     いファイル許可ビット間の対応付けを定義している。 標準化作業グループは、IEEE 1003.1 (“POSIX.1”) と互換性のな
     い アプリケーションが ACL を持つシステム上でも機能することを保証するために、 比較的複雑なインタフェースを定
     義した。 IEEE 1003.1e draft 17 には、このインタフェースを選択する理論的根拠が セクション B.23 に書かれてい
     る。

ファイルユーティリティの変更

     ACL をサポートするシステムでは、ファイルユーティリティ ls(1), cp(1), mv(1) は自身の動作を以下のように変更す
     る:

        デフォルト ACL を持つファイル、または必要とされる 3 つ以上の ACL エントリを 保持するアクセス ACL を持つ
         ファイルに対して、 ls(1) ユーティリティを長い形式 ls -l で実行すると、 プラス記号 (+) が許可文字列の後
         に表示される。

        -p フラグが指定された場合、 cp(1) ユーティリティは ACL も保存する。 保存できない場合は警告が出される。

        mv(1) ユーティリティは常に ACL を保存する。 保存できない場合は警告が出される。

     chmod(1) ユーティリティと chmod(2) システムコールのアクセス ACL に対する影響については、 「ACL エントリと
     ファイル許可ビットの対応」 で説明されている。

準拠

     IEEE 1003.1e draft 17 (“POSIX.1e”) は、 IEEE 1003.1 標準に対するいくつかのセキュリティ拡張について記述して
     いる。 1003.1e での作業は放棄されたが、多くの UNIX 系システムは POSIX.1e draft 17 またはそれ以前のドラフト
     の一部を実装している。

     Linux アクセス制御リストは、 POSIX.1e のアクセス制御リストで定義されている全ての関数セットと いくつかの拡張
     を実装している。 この実装は POSIX.1e draft 17 に完全に準拠する。 拡張にはその旨が記されている。 アクセス制
     御リストの操作関数は、 ACL ライブラリ (libacl, -lacl) で定義されている。 POSIX 互換のインタフェースは
     <sys/acl.h> ヘッダで宣言されている。 これらの関数に対する Linux 固有の拡張は、 <acl/libacl.h> ヘッダで宣言
     されている。

関連項目

     chmod(1), creat(2), getfacl(1), ls(1), mkdir(2), mkfifo(2), mknod(2), open(2), setfacl(1), stat(2),
     umask(1)

   POSIX 1003.1e DRAFT 17
     http://www.guug.de/~winni/posix.1e/download.html

   カテゴリによる POSIX 1003.1e 関数の分類
     ACL ストレージの管理
          acl_dup(3), acl_free(3), acl_init(3)

     ACL エントリの操作
          acl_copy_entry(3), acl_create_entry(3), acl_delete_entry(3), acl_get_entry(3), acl_valid(3)

          acl_add_perm(3), acl_calc_mask(3), acl_clear_perms(3), acl_delete_perm(3), acl_get_permset(3),
          acl_set_permset(3)

          acl_get_qualifier(3), acl_get_tag_type(3), acl_set_qualifier(3), acl_set_tag_type(3)

     オブジェクトの ACL の操作
          acl_delete_def_file(3), acl_get_fd(3), acl_get_file(3), acl_set_fd(3), acl_set_file(3)

     ACL 形式の変換
          acl_copy_entry(3), acl_copy_ext(3), acl_from_text(3), acl_to_text(3), acl_size(3)

   有効性による POSIX 1003.1e 関数の分類
     最初の関数のグループは POSIX ライクなアクセス制御リストを持つ 大部分のシステムでサポートされている。 一
     方、2 番目の関数のグループをサポートしているシステムは少ない。 移植を予定するアプリケーションでは、2 番目の
     グループを避けた方が良い。

     acl_delete_def_file(3), acl_dup(3), acl_free(3), acl_from_text(3), acl_get_fd(3), acl_get_file(3),
     acl_init(3), acl_set_fd(3), acl_set_file(3), acl_to_text(3), acl_valid(3)

     acl_add_perm(3), acl_calc_mask(3), acl_clear_perms(3), acl_copy_entry(3), acl_copy_ext(3), acl_copy_int(3),
     acl_create_entry(3), acl_delete_entry(3), acl_delete_perm(3), acl_get_entry(3), acl_get_permset(3),
     acl_get_qualifier(3), acl_get_tag_type(3), acl_set_permset(3), acl_set_qualifier(3), acl_set_tag_type(3),
     acl_size(3)

   LINUX 拡張
     これらの移植性のない拡張は、Linux システムでのみ有効である。

     acl_check(3), acl_cmp(3), acl_entries(3), acl_equiv_mode(3), acl_error(3), acl_extended_fd(3),
     acl_extended_file(3), acl_extended_file_nofollow(3), acl_from_mode(3), acl_get_perm(3), acl_to_any_text(3)

著者

     Andreas Gruenbacher, <a.gruenbacher@bestbits.at>