Provided by: manpages-ja-dev_0.5.0.0.20131015+dfsg-2_all bug

名前

       select, pselect, FD_CLR, FD_ISSET, FD_SET, FD_ZERO - 同期 I/O の多重化

書式

       /* POSIX.1-2001 に従う場合 */
       #include <sys/select.h>

       /* 以前の規格に従う場合 */
       #include <sys/time.h>
       #include <sys/types.h>
       #include <unistd.h>

       int select(int nfds, fd_set *readfds, fd_set *writefds,
                  fd_set *exceptfds, struct timeval *timeout);

       void FD_CLR(int fd, fd_set *set);
       int  FD_ISSET(int fd, fd_set *set);
       void FD_SET(int fd, fd_set *set);
       void FD_ZERO(fd_set *set);

       #include <sys/select.h>

       int pselect(int nfds, fd_set *readfds, fd_set *writefds,
                   fd_set *exceptfds, const struct timespec *timeout,
                   const sigset_t *sigmask);

   glibc 向けの機能検査マクロの要件 (feature_test_macros(7)  参照):

       pselect(): _POSIX_C_SOURCE >= 200112L || _XOPEN_SOURCE >= 600

説明

       select()   や pselect()  を使うと、プログラムで複数のファイルディスクリプタを監視し、 一つ
       以上のファイルディスクリプタがある種の I/O 操作の 「ready (準備ができた)」状態 (例えば、読
       み込み可能になった状態)  になるまで待つことができる。 ファイルディスクリプタが ready (準備
       ができた) とは、 対応する I/O 操作 (例えば read(2) など) が停止 (block) なしに実行可能な状
       態にあることを意味する。

       select()  と pselect()  の動作は同じであるが、以下の 3 点が異なる:

       (i)    select()   では、タイムアウト時間の指定に構造体 struct timeval (秒・マイクロ秒単位)
              を用いる。 一方、 pselect()  関数では、構造体 struct timespec (秒・ナノ秒単位) を用
              いる。

       (ii)   select()  は残り時間を示す timeout 引き数を更新することがある。 pselect()  はこの引
              き数を変更しない。

       (iii)  select()  は sigmask 引き数を持たない。その動作は sigmask に NULL  を指定した場合の
              pselect()  と同じである。

       3  つの独立したファイルディスクリプタ集合の監視を行う。 readfds に入れられたディスクリプタ
       については、読み込みが可能かどうかを 監視する (より正確にいうと、停止 (block) なしで読むこ
       とができるかを  調べる。ファイルの終端 (end-of-file) の場合も、 ファイルディスクリプタは読
       み込み可能として扱われる)。 writefds  に入れられたディスクリプタについては、停止せずに書き
       込みが 可能かどうかを監視する。 exceptfds にあるものについては、例外の監視を行なう。システ
       ムコール終了時に、 どのファイルディスクリプタの状態が実際に変化したか示すために、 集合の内
       容が変更される。    ある種別のイベントを監視したいファイルディスクリプタが一つもない場合に
       は、 対応するファイルディスクリプタ集合に NULL を指定することができる。

       集合を操作するために 4 つのマクロが提供されている。 FD_ZERO()  は集合を消去する。 FD_SET()
       と      FD_CLR()      はそれぞれ指定したファイルディスクリプタの集合への追加、削除を行う。
       FD_ISSET() は集合にファイルディスクリプタがあるかどうか調べる; このマクロは select()  が終
       了した後に使うと便利である。

       nfds は 3 つの集合に含まれるファイルディスクリプタの最大値に 1 を足したものである。

       timeout  引き数で、ファイルディスクリプタが ready になるのを待って select() が停止する停止
       時間を指定する (この停止時間はシステムクロックの粒度に切り上げられ、  カーネルのスケジュー
       リング遅延により少しだけ長くなる可能性がある)。  timeval 構造体の両方のフィールドが 0 の場
       合、 select() はすぐに復 帰する  (この機能はポーリング  (polling)  を行うのに便利である)。
       timeout  に  NULL  (タイムアウトなし) が指定されると、 select() は無 期限に停止 (block) す
       る。

       sigmask は、シグナルマスク (sigprocmask(2)  を参照) へのポインタである。 sigmask  が  NULL
       でない場合、  pselect()  は sigmask が指しているシグナルマスクで現在のシグナルマスクを置き
       換えてから、 "select" 関数を実行し、 終了後にシグナルマスクを元のシグナルマスクに戻す。

       timeout 引き数の精度の違いを除くと、以下の pselect()  の呼び出しは、

           ready = pselect(nfds, &readfds, &writefds, &exceptfds,
                           timeout, &sigmask);

       次のコールを atomic に実行するのと等価である。

           sigset_t origmask;

           pthread_sigmask(SIG_SETMASK, &sigmask, &origmask);
           ready = select(nfds, &readfds, &writefds, &exceptfds, timeout);
           pthread_sigmask(SIG_SETMASK, &origmask, NULL);

       pselect()  が必要になる理由は、シグナルやファイルディスクリプタの状態変化を 待ちたいときに
       は、競合状態を避けるために  atomic なテストが必要になる からである。 (シグナルハンドラが大
       域フラグを設定して戻る場合を考えてみよう。 この大域フラグのテストに続けて select()  を呼び
       出すと、  シグナルがテストの直後かつ呼び出しの直前に届いた時には select() は永久にハングし
       てしまうかもしれない。 一方、 pselect()  を使うと、まずシグナルを禁止 (block) して、入って
       くるシグナルを操作し、 望みの sigmaskpselect()  を呼び出すことで、前記の競合を避けるこ
       とができる。)

   タイムアウト
       これらの関数で使用される時間関連の構造体は、 <sys/time.h> で

           struct timeval {
               long    tv_sec;         /* 秒 */
               long    tv_usec;        /* マイクロ秒 */
           };

       や

           struct timespec {
               long    tv_sec;         /* 秒 */
               long    tv_nsec;        /* ナノ秒 */
           };

       のように定義されている。 (POSIX.1-2001 での定義については下記の「注意」を参照)

       秒単位以下の精度でスリープを実現する 移植性の高い方法として、 3 つの集合全てを空、 nfds を
       0 、 timeout を NULL でない値に設定して select()  を呼び出すという方法を使っているコードも
       ある。

       Linux では、 select()  は  timeout  を変更し、残りの停止時間を反映するようになっているが、
       他のほとんどの実装ではこのようになっていない  (POSIX.1-2001  はどちらの動作も認めている)。
       このため、 timeout を参照している Linux のコードを他のオペレーティング・システムへ  移植す
       る場合、問題が起こる。  また、ループの中で  timeval 構造体を初期化せずにそのまま再利用して
       select()  を複数回行なっているコードを Linux  へ移植する場合にも、問題が起こる。  select()
       から復帰した後は timeout は未定義であると考えるべきである。

返り値

       成功した場合、 select()  と pselect()  は更新された 3 つのディスクリプタ集合に含まれている
       ファイルディスクリプタの数 (つまり、 readfds, writefds, exceptfds 中の 1  になっているビッ
       トの総数)  を返す。 何も起こらずに時間切れになった場合、 ディスクリプタの数は 0 になること
       もある。 エラーならば -1 を返し、 errno に適切な値が設定される; 集合と timeout  は未定義と
       なるので、エラーが起こった後はそれらの内容を信頼してはならない。

エラー

       EBADF  いずれかの集合に無効なファイルディスクリプタが指定された  (おそらくは、すでにクロー
              ズされたファイルディスクリプタか、 エラーが発生したファイルディスクリプタが指定され
              た)。

       EINTR  シグナルを受信した。

       EINVAL n が負、または timeout に入っている値が不正である。

       ENOMEM 内部テーブルにメモリを割り当てることができなかった。

バージョン

       pselect()  はカーネル 2.6.16 で Linux に追加された。 それ以前は、 pselect()  は glibc でエ
       ミュレートされていた (「バグ」の章を参照)。

準拠

       select()  は POSIX.1-2001 と 4.4BSD (select()  は  4.2BSD  で最初に登場した)  に準拠する。
       BSD ソケット層のクローンをサポートしている非 BSD システム (System V 系も含む) との間でだい
       たい移植性がある。しかし System V 系では たいがい timeout 変数を exit の前にセットするが、
       BSD 系ではそうでないので注意すること。

       pselect()  は POSIX.1g と POSIX.1-2001 で定義されている。

注意

       fd_set  は固定サイズのバッファである。 負や FD_SETSIZE 以上の値を持つ fd に対して FD_CLR()
       や FD_SET()  を実行した場合、 どのような動作をするかは定義されていない。 また、 POSIX では
       fd は有効なファイルディスクリプタでなければならないと規定されている。

       型宣言に関しては、昔ながらの状況では timeval 構造体の 2 つのフィールドは (上記のように) 両
       方とも long 型であり、構造体は <sys/time.h> で定義されている。 POSIX.1-2001 の下では、以下
       のようになっている。

           struct timeval {
                 time_t         tv_sec;     /* 秒 */
                 suseconds_t    tv_usec;    /* マイクロ秒 */
           };

       この構造体は   <sys/select.h>   で定義されており、データ型   time_tsuseconds_t<sys/types.h> で定義されている。

       プロトタイプに関しては、昔ながらの状況で select()   を使いたい場合は、  <time.h>  をインク
       ルードすればよい。   POSIX.1-2001  の環境で  select()   と  pselect()   を使いたい場合は、
       <sys/select.h> をインクルードすればよい。

       ヘッダファイル <sys/select.h> は libc4 と libc5 にはなく、glibc 2.0 以降に存在する。  悪い
       ことに  glibc  2.0 以前では pselect()  のプロトタイプが間違っている。 glibc 2.1 から 2.2.1
       では _GNU_SOURCE が定義されている場合に、 pselect()  が提供される。 glibc 2.2.2 以降では、
       pselect()  を使用するには、「書式」に記載された要件を満たす必要がある。

   マルチスレッド・アプリケーション
       select()  で監視中のファイルディスクリプタが別のスレッドでクローズされた場合、どのような結
       果になるかは規定されていない。いくつかの UNIX システムでは、 select()  は停止  (block)  せ
       ず、すぐ返り、ファイルディスクリプタが  ready だと報告される (select() が返ってから I/O 操
       作が実行されるまでの間に、 別のファイルディスクリプタが再度オープンされない限り、 それ以降
       の  I/O 操作はおそらく失敗するだろう)。 Linux (や他のいくつかのシステム) では、 別のスレッ
       ドでファイルディスクリプタがクローズされても select() には影響を与えない。  まとめると、こ
       のような場合に特定の動作に依存しているアプリケーションは「バグっている」と考えなければなら
       ない。

   Linux での注意
       このページで説明している pselect() のインターフェースは、glibc  に  実装されているものであ
       る。内部で呼び出される  Linux のシステムコールは pselect6() という名前である。このシステム
       コールは glibc のラッパー 関数とは少し違った動作をする。

       Linux の pselect6() システムコールは timeout 引き数を変更する。 しかし、glibc のラッパー関
       数は、システムコールに渡す timeout 引き数と してローカル変数を使うことでこの動作を隠蔽して
       いる。このため、glibc の pselect() 関数は timeout 引き数を変更しない。 これが POSIX.1-2001
       が要求している動作である。

       pselect6() システムコールの最後の引き数は sigset_t * 型の ポインタではなく、以下に示す構造
       体である。

           struct {
               const sigset_t *ss;     /* シグナル集合へのポインタ */
               size_t          ss_len; /* 'ss' が指すオブジェクトのサイズ
                                          (バイト数) */
           };

       このようにすることで、ほとんどのアーキテクチャがサポートしている  システムコールの引き数が
       最大で  6 個という事実を満たしつつ、 pselect6() システムコールがシグナル集合へのポインタと
       シグナル集合 のサイズの両方を取得することができるのである。

バグ

       glibc 2.0 では、 sigmask 引き数を取らないバージョンの pselect()  が提供されていた。

       バージョン 2.1 以降の glibc では、 pselect()  は sigprocmask(2)   と  select()  を使ってエ
       ミュレートされていた。 この実装にはきわどい競合条件において脆弱性が残っていた。 この競合条
       件における問題を防止するために pselect()  は設計されたのである。 最近のバージョンの  glibc
       では、カーネルがサポートしている場合には、  (競合が起こらない) pselect()  システムコールが
       使用される。

       pselect() がないシステムにおいて、シグナルの捕捉を信頼性があり (移植 性も高い)  方法で行う
       には、  自己パイプ (self-pipe) という技を使うとよい。 この方法では、シグナルハンドラはパイ
       プへ 1 バイトのデータを書き込み、 同じパイプのもう一端をメインプログラムの select() で監視
       する (一杯に なったパイプへの書き込みや空のパイプから読み出しを行った際に起こるであ ろう停
       止 (blocking) を避けるためには、パイプへの読み書きの際には 非停止 (nonblocking) I/O を使用
       するとよい)。

       Linux  では、 select()  がソケットファイルディスクリプタで "読み込みの準備ができた" と報告
       した場合でも、 この後で read を行うと停止 (block) することがある。このような状況は、  例え
       ば、データが到着したが、検査でチェックサム異常が見つかり廃棄された時  などに起こりえる。他
       にもファイルディスクリプタが準備できたと間違って 報告される状況が起こるかもしれない。 した
       がって、停止すべきではないソケットに対しては O_NONBLOCK を使うとより安全であろう。

       Linux では、 select()  がシグナルハンドラにより割り込まれた場合 (つまり EINTR エラーが返る
       場合)、 timeout も変更する。 これは POSIX.1-2001 では認められていない挙動である。 Linux の
       pselect()  システムコールも同じ挙動をするが、  glibc  のラッパー関数がこの挙動を隠蔽してい
       る。 具体的には、glibc のラッパー関数の内部で、  timeout  をローカル変数にコピーし、  この
       ローカル変数をシステムコールに渡している。

       #include <stdio.h>
       #include <stdlib.h>
       #include <sys/time.h>
       #include <sys/types.h>
       #include <unistd.h>

       int
       main(void)
       {
           fd_set rfds;
           struct timeval tv;
           int retval;

           /* stdin (fd 0) を監視し、入力があった場合に表示する。*/
           FD_ZERO(&rfds);
           FD_SET(0, &rfds);

           /* 5 秒間監視する。*/
           tv.tv_sec = 5;
           tv.tv_usec = 0;

           retval = select(1, &rfds, NULL, NULL, &tv);
           /* この時点での tv の値を信頼してはならない。*/

           if (retval == -1)
            perror("select()");
           else if (retval)
               printf("今、データが取得できました。\n");
               /* FD_ISSET(0, &rfds) が true になる。*/
           else
               printf("5 秒以内にデータが入力されませんでした。\n");

           exit(EXIT_SUCCESS);
       }

関連項目

       accept(2),  connect(2),  poll(2),  read(2),  recv(2),  send(2),  sigprocmask(2), write(2),
       epoll(7), time(7)

       考察と使用例の書かれたチュートリアルとして、 select_tut(2)  がある。

この文書について

       この man ページは Linux man-pages プロジェクトのリリース 3.54 の一部  である。プロジェクト
       の説明とバグ報告に関する情報は http://www.kernel.org/doc/man-pages/ に書かれている。