plucky (7) mq_overview.7.gz

Provided by: manpages-ja_0.5.0.0.20221215+dfsg-1_all bug

名前

       mq_overview - POSIX メッセージキューの概要

説明

       POSIX  メッセージキューを使用すると、プロセス間で  メッセージの形でのデータのやり取りを行うことができる。
       この API は System V メッセージキューの API  (msgget(2),  msgsnd(2),  msgrcv(2)   など)  とは異なるものだ
       が、同様の機能を提供する。

       メッセージキューの作成とオープンは  mq_open(3)   を使って行う。この関数は メッセージキュー記述子 (message
       queue  descriptor)  (mqd_t)   を返す。これ以降のコールでは、オープンされたメッセージキューは   メッセージ
       キュー記述子  を使って参照される。 各メッセージキューは /somename の形の名前で区別することができる。 その
       名前は、最大で NAME_MAX (すなわち 255) 文字のヌル終端された文字列で、  スラッシュで始まり、スラッシュ以外
       の文字が  1 文字以上続く形式である。 mq_open(3)  に同じ名前を渡すことで、2つのプロセスで同一のキューを 操
       作することができる。

       メッセージのキューへの送受信は mq_send(3)  と mq_receive(3)  を使って行う。プロセスがキューの使用を終える
       ときには、  mq_close(3)  を使ってキューをクローズする。キューがもはや不要となった場合には、  mq_unlink(3)
       を使ってキューを削除できる。キューの属性は mq_getattr(3)  で取得でき、 (制限はあるが)  mq_setattr(3)   で
       変更できる。 mq_notify(3) を使うことで、空のキューへのメッセージ到着を非同期で 通知するように要求すること
       もできる。

       メッセージキュー記述子は オープンメッセージキュー記述 (open  message  queue  description)  への参照である
       (open(2)  も参照)。 fork(2)  実行後は、子プロセスは親プロセスのメッセージキュー記述子のコピーを継承する。
       これらの記述子は、親プロセスの対応するメッセージキュー記述子と同じオープンメッセージキュー記述を参照して
       いる。親プロセスと子プロセスの対応するメッセージキュー記述子は、フラグ   (mq_flags)    を共有する。なぜな
       ら、フラグはオープンメッセージキュー記述に 関連付けられているからである。

       各メッセージにはそれぞれ 優先度  (priority)  があり、メッセージの受信プロセスへの配送は常に  優先度の高い
       メッセージから順に行われる。  メッセージの優先度は  0 (低優先) から sysconf(_SC_MQ_PRIO_MAX) - 1 (高優先)
       の値を持つ。 Linux では、 sysconf(_SC_MQ_PRIO_MAX) は 32768 を返すが、 POSIX.1 で要求されているのは最低限
       0 から 31 までの優先度を実装することだけであり、実装によってはこの範囲の優先度しかサポートされていない。

       この節の残りでは、POSIX メッセージキューの Linux の実装の詳細 について説明する。

   ライブラリインターフェースとシステムコール
       ほとんどの場合、上記の mq_*() ライブラリインターフェースは、同じ名前の下位層のシステムコールを 使って実装
       されている。この枠組みにあてはまらないものを 以下の表に示す。

              Library interface    System call
              mq_close(3)          close(2)
              mq_getattr(3)        mq_getsetattr(2)
              mq_notify(3)         mq_notify(2)
              mq_open(3)           mq_open(2)
              mq_receive(3)        mq_timedreceive(2)
              mq_send(3)           mq_timedsend(2)
              mq_setattr(3)        mq_getsetattr(2)
              mq_timedreceive(3)   mq_timedreceive(2)
              mq_timedsend(3)      mq_timedsend(2)
              mq_unlink(3)         mq_unlink(2)

   バージョン
       Linux では POSIX メッセージキューはカーネル 2.6.6 以降でサポートされている。 glibc  ではバージョン  2.3.4
       以降でサポートされている。

   カーネルの設定
       POSIX メッセージキューのサポートは、カーネルの設定 (configuration)  オプション CONFIG_POSIX_MQUEUE で設定
       可能である。このオプションはデフォルトでは有効である。

   持続性
       POSIX メッセージキューはカーネル内で保持される。 mq_unlink(3)  で削除されなければ、メッセージキューは  シ
       ステムがシャットダウンされるまで存在し続ける。

   リンク
       POSIX メッセージキュー API を使用したプログラムは cc -lrt でコンパイルし、リアルタイムライブラリ librt と
       リンクしなければならない。

   /proc インターフェース
       以下のインターフェースを使って、 POSIX メッセージキューが消費するカーネル メモリーの量を制限したり、 新規
       のメッセージキューのデフォルト属性を設定したりすることができる。

       /proc/sys/fs/mqueue/msg_default (Linux 3.5 以降)
              このファイルは、attr  に  NULL を指定して mq_open(3) を呼び出してキューが作成された際に、 その新規
              キューの mq_maxmsg 設定に使用される値を定めている。 このファイルのデフォルト値は 10 である。  最小
              値と最大値は  /proc/sys/fs/mqueue/msg_max  と同様である。  新規キューのデフォルトの mq_maxmsg 値は
              msg_defaultmsg_max の小さい方となる。 Linux 2.6.28 より前は、デフォルトの mq_maxmsg は  10  で
              あった。 Linux 2.6.28 から Linux 3.4 までは、 デフォルト値は msg_max 上限で規定される値であった。

       /proc/sys/fs/mqueue/msg_max
              このファイルを使って、一つのキューに入れられるメッセージの最大数の  上限値を参照したり変更したりで
              きる。この値は、 mq_open(3)  に渡す attr->mq_maxmsg 引数に対する上限値として機能する。 msg_max  の
              デフォルト値は 10 で、 最小値は 1 (2.6.28 より前のカーネルでは 10) である。 msg_max に指定できる上
              限値は HARD_MSGMAX である。 msg_max 上限は特権プロセス (CAP_SYS_RESOURCE)   では無視されるが、上限
              値 HARD_MSGMAX はどんな場合にでも適用される。

              HARD_MSGMAX の定義はカーネルのバージョンにより異なる。

              *  Linux 2.6.32 以前: 131072 / sizeof(void *)

              *  Linux 2.6.33 以上 3.4 以下: (32768 * sizeof(void *) / 4)

              *  Linux 3.5 以降: 65,536

       /proc/sys/fs/mqueue/msgsize_default (Linux 3.5 以降)
              このファイルは、attr  に  NULL を指定して mq_open(3) を呼び出してキューが作成された際に、 その新規
              キューの mq_msgsize 設定に使用される値を定めている。 このファイルのデフォルト値は 8192  バイトであ
              る。    最小値と最大値は   /proc/sys/fs/mqueue/msgsize_max   と同様である。   msgsize_defaultmsgsize_max より大きい場合は、 新規キューのデフォルトの mq_msgsize 値は  msgsize_max  上限となる。
              Linux 2.6.28 より前は、デフォルトの mq_msgsize は 8192 であった。 Linux 2.6.28 から Linux 3.4 まで
              は、 デフォルト値は msgsize_max 上限で規定される値であった。

       /proc/sys/fs/mqueue/msgsize_max
              このファイルを使って、メッセージの最大サイズの上限値を参照したり変更したりできる。      この値は、
              mq_open(3) に渡す attr->mq_msgsize 引数に対する上限値として機能する。 msgsize_max のデフォルト値は
              8192 バイトで、 最小値は 128 (2.6.28 より前のカーネルでは 8192) である。 msgsize_max  の上限はカー
              ネルのバージョンにより異なる。

              *  Linux 2.6.28 より前のバージョンでは、上限は INT_MAX である。

              *  Linux 2.6.28 から 3.4 では、上限は 1,048,576 である。

              *  Linux 3.5 以降では、上限は 16,777,216 (HARD_MSGSIZEMAX) である。

              msgsize_max  上限は特権プロセス (CAP_SYS_RESOURCE) では無視されるが、 Linux 3.5 以降では特権プロセ
              スにも HARD_MSGSIZEMAX という上限が適用される。

       /proc/sys/fs/mqueue/queues_max
              このファイルを使って、作成可能なメッセージキュー数のシステム全体での制限を参照したり変更したりでき
              る。  queues_max  のデフォルト値は  256  である。 queues_max に課される上限値はない。 特権プロセス
              (CAP_SYS_RESOURCE) はこの上限値を超えてメッセージキューを作成できる。

   リソース制限
       リソース上限 RLIMIT_MSGQUEUE は、プロセスの実 UID に対応する全メッセージキューが消費する メモリー空間の量
       に対して上限を設定する。 getrlimit(2)  を参照。

   メッセージキューファイルシステムのマウント
       Linux  では、メッセージキューは仮想ファイルシステム内に作成される (他の実装でも同様の機能が提供されている
       ものもあるが、 詳細は違っているだろう)。 以下のコマンドを使うことで (スーパーユーザーは)   このファイルシ
       ステムをマウントできる:

           # mkdir /dev/mqueue
           # mount -t mqueue none /dev/mqueue

       マウントしたディレクトリのスティッキービット (sticky bit) は 自動的にオンとなる。

       メッセージキューファイルシステムのマウント後は、ファイルに対して   通常使うコマンド   (例えば  ls(1)   や
       rm(1)) を使って、システム上のメッセージキューを表示したり 操作したりできる。

       ディレクトリ内の各ファイルの内容は 1行であり、 キューに関する情報が表示される。

           $ cat /dev/mqueue/mymq
           QSIZE:129     NOTIFY:2    SIGNO:0    NOTIFY_PID:8260

       各フィールドの詳細は以下の通りである:

       QSIZE  キューに入っている全メッセージの合計バイト数 (ただし「バグ」を参照)。

       NOTIFY_PID
              この値が 0 以外の場合、この値の PID を持つプロセスが mq_notify(3) を使って、非同期のメッセージ通知
              を行うように設定したことを示す。 どのように通知が行われるかは、以下のフィールドにより決定される。

       NOTIFY 通知方法: 0 は SIGEV_SIGNAL; 1 は SIGEV_NONE; 2 は SIGEV_THREAD

       SIGNO  SIGEV_SIGNAL に使用されるシグナル番号。

   Linux でのメッセージキュー記述子の実装
       On  Linux,  a  message  queue  descriptor is actually a file descriptor.  (POSIX does not require such an
       implementation.)  This means that a message queue descriptor can be monitored using  select(2),  poll(2),
       or epoll(7).  This is not portable.

       The close-on-exec flag (see open(2))  is automatically set on the file descriptor returned by mq_open(2).

   IPC 名前空間
       POSIX メッセージキューオブジェクトと IPC 名前空間の相互の影響に関する議論は ipc_namespaces(7) を参照。

注意

       System  V メッセージキュー (msgget(2), msgsnd(2), msgrcv(2)  など) はプロセス間でメッセージをやり取りする
       ための古い API である。 POSIX メッセージキューは System V メッセージキューよりもうまく 設計されたインター
       フェースを提供している。  一方で、POSIX メッセージキューは System V メッセージキューと比べると 利用できる
       システムが少ない (特に、古いシステムでは少ない)。

       現在のことろ (バージョン 2.6.26 時点)、 Linux は POSIX  メッセージキューに対するアクセス制御リスト  (ACL)
       に 対応していない。

バグ

       バージョン  3.5  以降  3.14  未満の  Linux  では、  queues_max  上限を増やすことができる最大値として 1024
       (HARD_QUEUESMAX) という最大上限値がカーネルにより適用されていた。  この最大上限値は特権プロセスにも適用さ
       れていた。 この最大上限値は Linux 3.14 で削除され、 パッチで安定版カーネル 3.5.x から 3.13.x からもこの最
       大上限値は削除された。

       As originally implemented (and documented), the QSIZE field displayed the total number of (user-supplied)
       bytes  in  all  messages  in  the  message  queue.   Some  changes in Linux 3.5 inadvertently changed the
       behavior, so that this field also included a count of kernel overhead bytes used to store the messages in
       the  queue.  This behavioral regression was rectified in Linux 4.2 (and earlier stable kernel series), so
       that the count once more included just the bytes of user data in messages in the queue.

       各種のメッセージキュー関数を使用した例が mq_notify(3)  に記載されている。

関連項目

       getrlimit(2), mq_getsetattr(2), poll(2), select(2), mq_close(3), mq_getattr(3), mq_notify(3), mq_open(3),
       mq_receive(3), mq_send(3), mq_unlink(3), epoll(7), namespaces(7)

この文書について

       この  man ページは Linux man-pages プロジェクトのリリース 5.10 の一部である。プロジェクトの説明とバグ報告
       に関する情報は https://www.kernel.org/doc/man-pages/ に書かれている。