Provided by: manpages-ja-dev_0.5.0.0.20221215+dfsg-1_all bug

名前

       matherr - SVID 数学ライブラリの例外処理

書式

       #include <math.h>

       int matherr(struct exception *exc);

       extern _LIB_VERSION_TYPE _LIB_VERSION;

       -lm でリンクする。

説明

       Note:  the mechanism described in this page is no longer supported by glibc.  Before glibc
       2.27, it had been marked as obsolete.  Since glibc 2.27, the mechanism  has  been  removed
       altogether.   New  applications  should use the techniques described in math_error(7)  and
       fenv(3).  This page documents the matherr()  mechanism  as  an  aid  for  maintaining  and
       porting older applications.

       System  V  Interface Definition (SVID) では、各種の数学関数は数学的な 例外を検出した場合に
       matherr() を呼ばれる関数を起動すべきである、  と規定されている。この関数は数学関数が返る前
       に呼び出される。 matherr() が返った後に、システムは数学関数に戻り、 それから呼び出し元に返
       る。

       matherr() を使用するためには、 プログラマは  (どのヘッダーファイルをインクルードするよりも
       前に)  _SVID_SOURCE 機能検査マクロを定義し、値 _SVID_ をグローバル変数 _LIB_VERSION に代入
       しなければならない。

       デフォルト版の matherr() がシステムによって提供されている。 デフォルト版は何も行わず、0 を
       返す (このことの重要性については 下記を参照)。プログラマが matherr() を定義することで、 デ
       フォルト版を上書きすることができる。  プログラマが定義した関数は例外が発生した際に起動され
       る。  この関数は引数 1 個で起動され、その引数は以下に示す exception 構造体へのポインターで
       ある。

           struct exception {
               int    type;      /* Exception type */
               char  *name;      /* Name of function causing exception */
               double arg1;      /* 1st argument to function */
               double arg2;      /* 2nd argument to function */
               double retval;    /* Function return value */
           }

       type フィールドは以下の値のいずれかである。

       DOMAIN      領域エラー (domain error) が発生した (関数の引数が関数が定義された範囲外であっ
                   た)。 返り値は関数によって異なり、 errno には EDOM が設定される。

       SING        極エラー (pole error) が発生した (関数の結果が無限大である)。 返り値はほとんど
                   の場合 HUGE (最大の単精度浮動小数点数) となり、 たいていは符号付きである。  ほ
                   とんどの場合、errno には EDOM が設定される。

       OVERFLOW    オーバーフローが発生した。   ほとんどの場合、値  HUGE  が返され、  errno  には
                   ERANGE が設定される。

       UNDERFLOW   アンダーフローが発生した。 0.0 が返され、 errnoERANGE が設定される。

       TLOSS       Total loss of significance が発生した。 0.0 が返され、 errnoERANGE  が設定
                   される。

       PLOSS       Partial  loss  of significance が発生した。 この値は glibc (や他の多くのシステ
                   ム) で使用されていない。

       フィールド arg1arg2  は関数に渡された引数である  (引数を一つしか取らない関数の場合は
       arg2 は不定となる)。

       retval フィールドはその数学関数が呼び出し元に返そうとしている返り値 を示す。プログラマが定
       義した matherr() でこのフィールドを変更する ことで、その数学関数の返り値を変更することがで
       きる。

       matherr() 関数が 0 を返した場合、 システムは errno を上記の通り設定し、標準エラー出力に エ
       ラーメッセージを表示することがある (下記参照)。

       matherr() 関数が 0 以外の値を返した場合、 システムは errno  を設定せず、エラーメッセージの
       表示も行わない。

   matherr() を利用している数学関数
       下記の表は、関数と  matherr() が呼び出される状況の一覧である。 "Type" 列 は matherr() が呼
       び出される際に exc->type に 設定される値を示す。 "Result" 列は exc->retval に 設定されるデ
       フォルトの返り値を示す。

       "Msg?"  列と "errno" 列は matherr() が 0 を返した場合のデフォルトの 動作を示す。 "Msg?" 列
       に "y" が入っている場合、システムは標準エラー 出力にエラーメッセージを表示する。

       以下の表では、下記の記法と省略形を使用している。

              x        関数の最初の引数
              y        関数の二番目の引数
              fin      引数の値が無限大
              neg      引数が負の値
              int      引数が整数値
              o/f      結果のオーバーフロー
              u/f      結果のアンダーフロー
              |x|      x の絶対値
              X_TLOSS  <math.h> で定義される定数

       Function             Type        Result         Msg?   errno
       acos(|x|>1)          DOMAIN      HUGE            y     EDOM
       asin(|x|>1)          DOMAIN      HUGE            y     EDOM
       atan2(0,0)           DOMAIN      HUGE            y     EDOM
       acosh(x<1)           DOMAIN      NAN             y     EDOM
       atanh(|x|>1)         DOMAIN      NAN             y     EDOM
       atanh(|x|==1)        SING        (x>0.0)?        y     EDOM
                                        HUGE_VAL :
                                        -HUGE_VAL
       cosh(fin) o/f        OVERFLOW    HUGE            n     ERANGE
       sinh(fin) o/f        OVERFLOW    (x>0.0) ?       n     ERANGE
                                        HUGE : -HUGE
       sqrt(x<0)            DOMAIN      0.0             y     EDOM
       hypot(fin,fin) o/f   OVERFLOW    HUGE            n     ERANGE
       exp(fin) o/f         OVERFLOW    HUGE            n     ERANGE
       exp(fin) u/f         UNDERFLOW   0.0             n     ERANGE
       exp2(fin) o/f        OVERFLOW    HUGE            n     ERANGE
       exp2(fin) u/f        UNDERFLOW   0.0             n     ERANGE
       exp10(fin) o/f       OVERFLOW    HUGE            n     ERANGE
       exp10(fin) u/f       UNDERFLOW   0.0             n     ERANGE
       j0(|x|>X_TLOSS)      TLOSS       0.0             y     ERANGE
       j1(|x|>X_TLOSS)      TLOSS       0.0             y     ERANGE
       jn(|x|>X_TLOSS)      TLOSS       0.0             y     ERANGE
       y0(x>X_TLOSS)        TLOSS       0.0             y     ERANGE
       y1(x>X_TLOSS)        TLOSS       0.0             y     ERANGE
       yn(x>X_TLOSS)        TLOSS       0.0             y     ERANGE
       y0(0)                DOMAIN      -HUGE           y     EDOM
       y0(x<0)              DOMAIN      -HUGE           y     EDOM
       y1(0)                DOMAIN      -HUGE           y     EDOM
       y1(x<0)              DOMAIN      -HUGE           y     EDOM
       yn(n,0)              DOMAIN      -HUGE           y     EDOM
       yn(x<0)              DOMAIN      -HUGE           y     EDOM

       lgamma(fin) o/f      OVERFLOW    HUGE            n     ERANGE
       lgamma(-int) or      SING        HUGE            y     EDOM
         lgamma(0)
       tgamma(fin) o/f      OVERFLOW    HUGE_VAL        n     ERANGE
       tgamma(-int)         SING        NAN             y     EDOM
       tgamma(0)            SING        copysign(       y     ERANGE
                                        HUGE_VAL,x)
       log(0)               SING        -HUGE           y     EDOM
       log(x<0)             DOMAIN      -HUGE           y     EDOM
       log2(0)              SING        -HUGE           n     EDOM
       log2(x<0)            DOMAIN      -HUGE           n     EDOM
       log10(0)             SING        -HUGE           y     EDOM
       log10(x<0)           DOMAIN      -HUGE           y     EDOM
       pow(0.0,0.0)         DOMAIN      0.0             y     EDOM
       pow(x,y) o/f         OVERFLOW    HUGE            n     ERANGE
       pow(x,y) u/f         UNDERFLOW   0.0             n     ERANGE
       pow(NaN,0.0)         DOMAIN      x               n     EDOM
       0**neg               DOMAIN      0.0             y     EDOM
       neg**non-int         DOMAIN      0.0             y     EDOM
       scalb() o/f          OVERFLOW    (x>0.0) ?       n     ERANGE
                                        HUGE_VAL :
                                        -HUGE_VAL
       scalb() u/f          UNDERFLOW   copysign(       n     ERANGE
                                          0.0,x)
       fmod(x,0)            DOMAIN      x               y     EDOM
       remainder(x,0)       DOMAIN      NAN             y     EDOM

属性

       この節で使用されている用語の説明については、 attributes(7) を参照。

       ┌─────────────────┬───────────────┬─────────┐
       │インターフェース属性      │
       ├─────────────────┼───────────────┼─────────┤
       │matherr()        │ Thread safety │ MT-Safe │
       └─────────────────┴───────────────┴─────────┘

       以下のサンプルプログラムは log(3) を呼び出した際の matherr()  の使用法を示したものである。
       最初の引数は    log(3)    に渡す浮動小数点数である。    省略可能な第二引数を指定した場合、
       _LIB_VERSION_SVID_ が設定され、 matherr() が呼ばれるようになる。  このコマンドライン引
       数で指定した整数は、 matherr() からの返り値として使用される。 省略可能な第三引数を指定した
       場合、 matherr() は 数学関数の返り値として代わりに引数で指定した値を割り当てる。

       以下の実行例では、 log(3) に引数 0.0 が渡しているが、 matherr() は使用しない。

           $ ./a.out 0.0
           errno: Numerical result out of range
           x=-inf

       以下の実行例では、 matherr() が呼び出され、返り値 0 が返される。

           $ ./a.out 0.0 0
           matherr SING exception in log() function
                   args:   0.000000, 0.000000
                   retval: -340282346638528859811704183484516925440.000000
           log: SING error
           errno: Numerical argument out of domain
           x=-340282346638528859811704183484516925440.000000

       メッセージ "log: SING error" は C ライブラリによって出力されている。

       次の実行例では、 matherr() が呼び出され、0 以外の返り値が返される。

           $ ./a.out 0.0 1
           matherr SING exception in log() function
                   args:   0.000000, 0.000000
                   retval: -340282346638528859811704183484516925440.000000
           x=-340282346638528859811704183484516925440.000000

       この場合は、C ライブラリはメッセージを出力しておらず、 errno は設定されていない。

       次の実行例では、 matherr() が呼び出され、 数学関数の返り値が変更され、0 以外の返り値が返さ
       れている。

           $ ./a.out 0.0 1 12345.0
           matherr SING exception in log() function
                   args:   0.000000, 0.000000
                   retval: -340282346638528859811704183484516925440.000000
           x=12345.000000

   プログラムのソース

       #define _SVID_SOURCE
       #include <errno.h>
       #include <math.h>
       #include <stdio.h>
       #include <stdlib.h>

       static int matherr_ret = 0;     /* Value that matherr()
                                          should return */
       static int change_retval = 0;   /* Should matherr() change
                                          function's return value? */
       static double new_retval;       /* New function return value */

       int
       matherr(struct exception *exc)
       {
           fprintf(stderr, "matherr %s exception in %s() function\n",
                  (exc->type == DOMAIN) ?    "DOMAIN" :
                  (exc->type == OVERFLOW) ?  "OVERFLOW" :
                  (exc->type == UNDERFLOW) ? "UNDERFLOW" :
                  (exc->type == SING) ?      "SING" :
                  (exc->type == TLOSS) ?     "TLOSS" :
                  (exc->type == PLOSS) ?     "PLOSS" : "???",
                   exc->name);
           fprintf(stderr, "        args:   %f, %f\n",
                   exc->arg1, exc->arg2);
           fprintf(stderr, "        retval: %f\n", exc->retval);

           if (change_retval)
               exc->retval = new_retval;

           return matherr_ret;
       }

       int
       main(int argc, char *argv[])
       {
           double x;

           if (argc < 2) {
               fprintf(stderr, "Usage: %s <argval>"
                       " [<matherr-ret> [<new-func-retval>]]\n", argv[0]);
               exit(EXIT_FAILURE);
           }

           if (argc > 2) {
               _LIB_VERSION = _SVID_;
               matherr_ret = atoi(argv[2]);
           }

           if (argc > 3) {
               change_retval = 1;
               new_retval = atof(argv[3]);
           }

           x = log(atof(argv[1]));
           if (errno != 0)
               perror("errno");

           printf("x=%f\n", x);
           exit(EXIT_SUCCESS);
       }

関連項目

       fenv(3), math_error(7), standards(7)

この文書について

       この man ページは Linux man-pages プロジェクトのリリース 5.10 の一部である。プロジェクトの
       説明とバグ報告に関する情報は https://www.kernel.org/doc/man-pages/ に書かれている。