Provided by: manpages-ja-dev_0.5.0.0.20140515+dfsg-2_all bug

名前

       fcntl - ファイルディスクリプタの操作を行う

書式

       #include <unistd.h>
       #include <fcntl.h>

       int fcntl(int fd, int cmd, ... /* arg */ );

説明

       fcntl()   は、オープンされたファイルディスクリプタ fd に関して下記の操作を行う。操作は cmd
       によって決まる:

       fcntl() はオプションとして第三引き数をとることができる。 第三引き数が必要  かどうかは  cmd
       により決まる。必要な引き数の型は cmd 名の後ろの括弧内で 指定されている (ほとんどの場合、必
       要な型は int であり、この引き数を表すの に arg という名前を使っている)。引き数が必要ない場
       合には void が指定さ れている。

   ファイルディスクリプタの複製
       F_DUPFD (int)
              利用可能なファイルディスクリプタのうち、 arg 以上で最小のものを探し、 fd のコピーと
              する。これは別の形の dup2(2) である。 dup2(2)  では指定されたディスクリプタが使われ
              る点が違う。

              成功すると、新しいディスクリプタが返される。

              詳細は dup(2)  を参照のこと。

       F_DUPFD_CLOEXEC (int; Linux 2.6.24 以降)
              F_DUPFD と同様だが、それに加えて複製されたディスクリプタに対して close-on-exec フラ
              グをセットする。 このフラグを指定することで、プログラムは FD_CLOEXEC フラグをセット
              するために  fcntl()  の F_SETFD 操作を追加で行う必要がなくなる。 このフラグがなぜ有
              用かについては、 open(2)  の O_CLOEXEC の説明を参照のこと。

   ファイルディスクリプタフラグ
       以下のコマンドを使って、ファイルディスクリプタに関連するフラグ を操作することができる。 現
       在のところ、定義されているフラグは一つだけである:   FD_CLOEXEC   (close-on-exec  フラグ)。
       FD_CLOEXEC ビットが 0 なら、ファイルディスクリプタは execve(2)  を行ってもオープンされたま
       まだが、そうでない場合はクローズされる。

       F_GETFD (void)
              ファイルディスクリプタフラグを読み出す。 arg は無視される。

       F_SETFD (int)
              ファイルディスクリプタフラグに arg で指定した値を設定する。

       マルチスレッドプログラムでは、  fcntl() の F_SETFD を使って close-on-exec フラグを設定する
       のと同時に、 別のスレッドで execve(2) と fork(2) を実行することは、競合条件次第では、 その
       ファイルディスクリプタが子プロセスで実行されるプログラムに意図せず見えてしまうという危険性
       がある。 詳細とこの問題への対処法については open(2)  の  O_CLOEXEC  フラグの議論を参照のこ
       と。

   ファイル状態フラグ
       オープンファイル記述 (open file description) には、 ファイル記述毎に設定される状態フラグが
       いくつかある。これらのフラグは open(2)  によって初期化され、 fcntl(2)   により変更すること
       もできる。これらは、  (dup(2), fcntl(F_DUPFD), fork(2)  などで) 複製されたファイルディスク
       リプタ同士は 同じオープンファイル記述を参照する。 そのため、  同じファイル状態フラグが共有
       される。

       ファイル状態フラグとその意味は open(2)  で説明されている。

       F_GETFL (void)
              ファイルのアクセスモードとファイル状態フラグを取得する。 arg は無視される。

       F_SETFL (int)
              ファイル状態フラグに  arg で指定された値を設定する。 arg のうち、ファイルのアクセス
              モード  (O_RDONLY,  O_WRONLY,  O_RDWR)   とファイル作成フラグ  (すなわち   O_CREAT,
              O_EXCL, O_NOCTTY, O_TRUNC)  に関するビットは無視される。 Linux では、このコマンドで
              変更できるのは O_APPEND, O_ASYNC, O_DIRECT,  O_NOATIME,  O_NONBLOCK  フラグだけであ
              る。フラグ O_DSYNC, O_SYNC を変更することはできない。下記の「バグ」を参照。

   アドバイザリロック
       F_SETLK,  F_SETLKW, F_GETLK は、レコードロックの獲得/解放/テストのために使用する (レコー
       ドロックはファイルセグメントロックや ファイル領域ロックとも呼ばれる)。 三番目の引き数 lock
       は、以下に示すフィールドを含む構造体へのポインタである (フィールドの順序は関係なく、構造体
       に他のフィールドがあってもよい)。

           struct flock {
               ...
               short l_type;    /* Type of lock: F_RDLCK,
                                   F_WRLCK, F_UNLCK */
               short l_whence;  /* How to interpret l_start:
                                   SEEK_SET, SEEK_CUR, SEEK_END */
               off_t l_start;   /* Starting offset for lock */
               off_t l_len;     /* Number of bytes to lock */
               pid_t l_pid;     /* PID of process blocking our lock
                                   (F_GETLK only) */
               ...
           };

       この構造体の l_whence, l_start, l_len フィールドで、ロックを行いたいバイト範囲を指定する。
       ファイルの末尾より後ろのバイトをロックすることはできるが、  ファイルの先頭より前のバイトを
       ロックすることはできない。

       l_start  はロックを行う領域の開始オフセットである。  その意味は   l_whence   により異なる:
       l_whenceSEEK_SET の場合はファイルの先頭からのオフセット、 l_whenceSEEK_CUR の場合
       は現在のファイルオフセットからのオフセット、 l_whenceSEEK_END の場合はファイルの末尾か
       らのオフセットと解釈される。 後ろの2つの場合には、 ファイルの先頭より前にならない範囲で、
       l_start に負の値を指定することができる。

       l_len はロックしたいバイト数を示す。 l_len が正の場合、ロックされるバイト範囲は l_start 以
       上  l_start+l_len-1 以下となる。 l_len に 0 を指定した場合は特別な意味を持つ: l_whence and
       l_start で指定される位置からファイルの末尾までの全てのバイトをロックする (ファイルがどんな
       に大きくなったとしてもファイルの末尾までロックする)。

       POSIX.1-2001 では、負の値の l_len をサポートする実装を認めている (必須ではない)。 l_len が
       負の場合、ロックされるバイト範囲は l_start+l_len 以上  l_start-1  以下となる。  この動作は
       カーネル 2.4.21 以降および 2.5.49 以降の Linux で サポートされている。

       l_type  フィールドは、ファイルに対して読み出しロック (F_RDLCK)  と書き込みロック (F_WRLCK)
       のどちらを 設定するかを指定する。 ファイルのある領域に対して、読み出しロック  (共有ロック)
       を保持できる プロセス数に制限はないが、書き込みロック (排他ロック) を保持できる のは一つの
       プロセスだけである。排他ロックを設定すると、(共有ロックか 排他ロックにかかわらず) 他のロッ
       クは何も設定できない。  一つのプロセスは、ファイルのある領域に対して一種類のロックしか保持
       できない。 新規のロックがロックが設定されている領域に対して適用されると、既存のロック は新
       規のロックの種別に変換される (新規のロックで指定されたバイト範囲が既存ロックの範囲と一致す
       る場合以外では、 変換の過程で既存のロックの分割、縮小、結合が行われることがある)。

       F_SETLK (struct flock *)
              (l_typeF_RDLCKF_WRLCK の場合は) ロックの獲得を、 (F_UNLCK の場合は)  ロック
              の解放を、 flock 構造体のフィールド l_whence, l_start, l_len で指定された範囲のバイ
              トに対して行う。   指定されたロックが他のプロセスが設定しているロックと衝突する場合
              は、 -1 を返し、 errnoEACCESEAGAIN を設定する。

       F_SETLKW (struct flock *)
              F_SETLK と同様だが、こちらではそのファイルに対して衝突するロックが 適用されていた場
              合に、そのロックが解放されるのを待つ点が異なる。 待っている間にシグナルを受けた場合
              は、システムコールは中断され、  (シグナルハンドラが戻った直後に)  返り値  -1 を返す
              (また errnoEINTR が設定される; signal(7)  参照)。

       F_GETLK (struct flock *)
              このコールの呼び出し時には、 lock  にはそのファイルに適用しようとするロックに関する
              情報が入っている。   ロックを適用できる場合には、  fcntl()   は実際にはロックを行わ
              ず、構造体 lockl_type フィールドに  F_UNLCK  を設定し、他のフィールドは変更せず
              に、復帰する。  違う種別のロックが (一つもしくは複数) 適用されていて ロックを適用で
              きないような場合には、 fcntl()   は、原因となったロックの一つについての詳細情報を構
              造体 lock のフィールド l_type, l_whence, l_start, l_len に格納し、また l_pid にロッ
              クを保持しているプロセスの PID を設定して、復帰する。 F_GETLK  が返す情報は呼び出し
              元がその情報を使用するときにはすでに古くなっている可能性がある点に注意すること。

       読み出しロックを適用するには、  fd は読み出し用にオープンされていなければならない。 書き込
       みロックを適用するには、 fd は書き込み用にオープンされていなければならない。  読み書き両方
       のロックを適用するには、読み書き両用で ファイルをオープンしなければならない。

       レコードのロックは、  F_UNLCK  により明示的に削除されるだけでなく、 プロセスが終了したとき
       や、ロックが適用されているファイルを参照している  ファイルディスクリプタのいずれかがクロー
       ズされた場合にも解放される。 このロックの解放は自動的に行われる。 この動作はまずい: あるプ
       ロセスが /etc/passwd/etc/mtab といったファイルにロックを適用しているときに、  あるライ
       ブラリ関数が何かの理由で同じファイルを  open, read, close すると、そのファイルへのロックが
       失われることになる。

       レコードのロックは fork(2)  で作成された子プロセスには継承されないが、 execve(2)  の前後で
       は保存される。

       stdio(3)   ではバッファリングが行われるので、 stdio 関連の関数ではレコードのロックの使用は
       回避される; 代わりに read(2)  や write(2)  を使用すること。

   強制ロック (mandatory locking)
       上述のロックにはアドバイザリロック (advisory lock) と強制ロック (mandatory lock)  の二種類
       があるが、デフォルトではアドバイザリロックとなる。

       アドバイザリロックに強制力はなく、協調して動作するプロセス間でのみ 有効である。

       強制ロックは全てのプロセスに対して効果がある。  あるプロセスが互換性のない強制ロックが適用
       されたファイル領域に対して (read(2)  や write(2)  により) 互換性のないアクセスを実行しよう
       とした場合、 アクセスの結果は そのファイルのオープンファイル記述で O_NONBLOCK フラグが有効
       になっているかにより決まる。 O_NONBLOCK フラグが有効になっていないときは、ロックが削除され
       るか、 ロックがアクセスと互換性のあるモードに変換されるまで、 システムコールは停止 (block)
       される。 O_NONBLOCK フラグが有効になっているときは、システムコールはエラー EAGAIN で失敗す
       る。

       強制ロックを使用するためには、ロック対象のファイルが含まれるファイルシステム  と、ロック対
       象のファイル自身の両方について、強制ロックが有効になっていなけれ  ばならない。ファイルシス
       テムについて強制ロックを有効にするには、   mount(8)   に  "-o  mand"  オプションを渡すか、
       mount(2)  に MS_MANDLOCK フラグを指定する。ファイルについて強制ロックを有効にするには、 そ
       のファイルのグループ実行許可  (group execute permission) を無効とし、 かつ set-group-ID 許
       可ビットを有効にする (chmod(1)  と chmod(2)  を参照)。

       Linux の強制ロックの実装は信頼性に欠けるものである。 下記の「バグ」の節を参照のこと。

   シグナルの管理
       F_GETOWN, F_SETOWN, F_GETOWN_EX, F_SETOWN_EX, F_GETSIG, F_SETSIG は、I/O  が利用可能になっ
       たことを示すシグナルを管理するために使用される。

       F_GETOWN (void)
              ファイルディスクリプタ fd のイベントに対するシグナル SIGIO および SIGURG を受けてい
              るプロセスのプロセスID かプロセスグループを (関数の結果として) 返す。 プロセスID は
              正の値として返される。  プロセスグループID は負の値として返される (下記のバグの章を
              参照)。 arg は無視される。

       F_SETOWN (int)
              ファイルディスクリプタ fd のイベント発生を知らせるシグナル SIGIOSIGURG を受ける
              プロセスの プロセス ID またはプロセスグループID を arg で指定された ID に設定する。
              プロセスID は正の値として指定し、 プロセスグループID は負の値として指定する。  ほと
              んどの場合、呼び出し元プロセスは所有者として自分自身を指定する   (つまり   arggetpid(2) を指定する)。

              fcntl()  の F_SETFL コマンドを使用してファイルディスクリプタに O_ASYNC 状態フラグを
              設定した場合には、そのファイルディスクリプタへの  入出力が可能になる度に SIGIO シグ
              ナルが送られる。 F_SETSIGSIGIO 以外の別のシグナルの配送を受けられるように  する
              のにも使うことができる。  許可 (permission) のチェックで失敗した場合には、 シグナル
              は黙って捨てられる。

              F_SETOWN により指定された所有者のプロセス (またはプロセスグループ) に  シグナルを送
              る際には、  kill(2) に書かれているのと同じ許可のチェックが行われる。 このとき、シグ
              ナルを送信するプロセスは F_SETOWN を使ったプロセスである  (但し、下記の「バグ」の章
              を参照のこと)。

              ファイルディスクリプタがソケットを参照している場合は、  F_SETOWN を使用して、ソケッ
              トに帯域外 (out-of-band) データが届いた時に SIGURG シグナルを配送する相手を選択する
              こともできる  (SIGURG が送られた場合には select(2) がソケットが「特別な状態」にある
              と報告することだろう)。

              バージョン 2.6.11 以前の 2.6.x カーネルでは、以下に示す動作であった。

                     スレッドグループをサポートしているスレッドライブラリ (例えば NPTL) を 使って
                     動作しているマルチスレッドプロセスで  F_SETSIG に 0 以外の値を指定した場合、
                     F_SETOWN  に正の値を渡すと、その意味が違ってくる:   プロセス全体を示すプロセ
                     スID ではなく、プロセス内の特定の スレッドを示すスレッドID と解釈される。 し
                     たがって、 F_SETSIG を使う場合には、きちんと結果を受け取るには、 F_SETOWN に
                     渡す値を  getpid(2)  ではなく gettid(2) の返り値にする必要があるだろう。 (現
                     状の Linux スレッド実装では、メインスレッドのスレッドID は  そのスレッドのプ
                     ロセスID   と同じである。つまり、   シグナルスレッドのプログラムではこの場合
                     gettid(2)  と getpid(2) は全く同じように使うことができる。)   ただし、注意す
                     べき点として、この段落で述べたことは、  ソケットの帯域外データが届いたときに
                     生成される SIGURG シグナルにはあてはまらない。  このシグナルは常にプロセスか
                     プロセスグループに送られ、  送信先は F_SETOWN に渡された値にしたがって決めら
                     れる。

              上記の動作は、Linux 2.6.12  で図らずも削除され、  元に戻されない予定である。  Linux
              2.6.32 以降で、特定のスレッド宛にシグナル SIGIOSIGURG を送るには F_SETOWN_EX を
              使うこと。

       F_GETOWN_EX (struct f_owner_ex *) (Linux 2.6.32 以降)
              直前の  F_SETOWN_EX  操作で定義された現在のファイルディスクリプタの所有者設定  を返
              す。情報は arg が指す構造体に格納されて返される。構造体は以下の通りである。

                  struct f_owner_ex {
                      int   type;
                      pid_t pid;
                  };

              type フィールドは、 F_OWNER_TID , F_OWNER_PID , F_OWNER_PGRP のいずれか一つの値とな
              る。 pid フィールドは、スレッド ID、プロセス ID、プロセスグループ ID を  表す正の整
              数である。詳細は F_SETOWN_EX を参照。

       F_SETOWN_EX (struct f_owner_ex *) (Linux 2.6.32 以降)
              この操作は F_SETOWN と同様の処理を行う。 この操作を使うと、I/O が利用可能になったこ
              とを示すシグナルを、   特定のスレッド、プロセス、プロセスグループに送ることができる
              ようになる。   呼び出し元は、   arg   経由でシグナルの配送先を指定する。   argf_owner_ex 構造体へのポインタである。  type  フィールドは以下のいずれかの値を取り、
              この値により pid がどのように解釈されるかが規定される。

              F_OWNER_TID
                     スレッド ID が pid で指定された値のスレッドにそのシグナルを送る (スレッド ID
                     は clone(2)  や gettid(2)  の呼び出しで返される値である)。

              F_OWNER_PID
                     ID が pid で指定された値のプロセスにそのシグナルを送る。

              F_OWNER_PGRP
                     ID が pid  で指定された値のプロセスグループにそのシグナルを送る。  (F_SETOWN
                     と異なり、プロセスグループ ID には正の値を指定する点に注意すること。)

       F_GETSIG (void)
              入力や出力が可能になった場合に送るシグナルを   (関数の結果として)  返す。  値ゼロは
              SIGIO を送ることを意味する。 (SIGIO を含む) 他の値はいずれも、 SIGIO の代わりに送る
              シグナル番号を表す。 後者の場合、シグナルハンドラを SA_SIGINFO フラグ付きで設定すれ
              ば、ハンドラで追加の情報を得ることができる。 arg は無視される。

       F_SETSIG (int)
              入力や出力が可能になった場合に送るシグナルを arg に指定された値に設定する。  値ゼロ
              は  SIGIO を送ることを意味する。 (SIGIO を含む) 他の値はいずれも、 SIGIO の代わりに
              送るシグナル番号を表す。 後者の場合、シグナルハンドラを SA_SIGINFO フラグ付きで設定
              すれば、 ハンドラで追加の情報を得ることができる。

              F_SETSIG にゼロ以外の値を設定し、シグナルハンドラに SA_SIGINFO フラグを設定すると、
              (sigaction(2) を参照) I/O イベントに関する追加の情報が siginfo_t 構造体でシグナルハ
              ンドラへ渡される。  si_code  フィールドが示すシグナルの原因が SI_SIGIO である場合、
              si_fd フィールドにはイベントに対応するファイルディスクリプタが入っている。 それ以外
              の場合は、どのファイルディスクリプタが利用可能かを示す情報は ないので、どのファイル
              ディスクリプタで I/O  が可能かを判断するためには  通常の機構  (select(2),  poll(2),
              O_NONBLOCK を設定した read(2)  など) を使用しなければならない。

              リアルタイムシグナル (値が SIGRTMIN 以上) を選択している場合は、 同じシグナル番号を
              持つ複数の I/O イベントがキューに入ることがある (キューに入れるかどうかは利用可能な
              メモリに依存している)。  上記と同様、 SA_SIGINFO が設定されている場合、シグナルハン
              ドラのための追加の情報が得られる。

              以下の点に注意すること。 Linux では一つのプロセスに対してキューに入れられるリアルタ
              イム  シグナルの数に上限が設けられており (getrlimit(2)  と signal(7)  を参照)、この
              上限に達するとカーネルは SIGIO シグナルを配送する。この SIGIO  シグナルは、指定され
              たスレッドではなくプロセス全体に送られる。

       これらの機構を使用することで、ほとんどの場合で select(2)  や poll(2)  を使用せずに完全な非
       同期 I/O を実装することができる。

       O_ASYNC の使用方法は BSD と Linux  に特有である。  POSIX.1  で規定されている  F_GETOWNF_SETOWN  の使用方法は、ソケットに対する SIGURG シグナルとの組み合わせだけである (POSIX は
       SIGIO シグナルは規定していない)。 F_GETOWN_EX, F_SETOWN_EX, F_GETSIG, F_SETSIG は Linux 固
       有である。POSIX   には、同様のことを行うために、非同期   I/O  と  aio_sigevent  構造体があ
       る。Linux では、GNU C ライブラリ (Glibc) の一部として これらも利用可能である。

   リース (leases)
       (Linix 2.4 以降で利用可能)  F_SETLEASE は、 fd  が参照するオープンファイル記述に対して新し
       いリースを設定するのに使用される。 F_GETLEASE は、 fd が参照するオープンファイル記述に対し
       て設定されている 現在のリースを取得するのに使用される。 ファイルのリースにより、  あるプロ
       セス ("lease breaker") がそのファイルディスクリプタが参照 しているファイルに対して open(2)
       や truncate(2) を行おうとした際に、リースを保持しているプロセス ("lease holder") へ  (シグ
       ナルの配送による) 通知が行われるという機構が提供される。

       F_SETLEASE (int)
              arg の内容に基いてファイルのリースの設定、削除を行う。整数 arg には以下の値が指定で
              きる:

              F_RDLCK
                     読み出しリースを取得する。これにより、  そのファイルが書き込み用にオープンさ
                     れたり、ファイルが切り詰められた場合に、  呼び出し元のプロセスに通知が行われ
                     るようになる。  読み出しリースを設定できるのは、読み出し専用でオープンされて
                     いる ファイルディスクリプタに対してのみである。

              F_WRLCK
                     書き込みリースを取得する。これにより、  (読み出し用か書き込み用にかかわらず)
                     そのファイルがオープンされたり、  ファイルが切り詰められた場合に、呼び出し元
                     のプロセスに通知が行われるようになる。  書き込みリースは、そのファイルに対す
                     るオープンされたファイルディスクリプタが 他にない場合にのみ設定できる。

              F_UNLCK
                     そのファイルからリースを削除する。

       リースはオープンファイル記述に対して関連付けられる (open(2)  参照)。 つまり、 (fork(2)  や
       dup(2) などにより作成された) ファイルディスクリプタの複製は同じリースを参照し、 複製も含め
       たどのファイルディスクリプタを使ってもこのリースを変更したり 解放したりできる。 また、これ
       らのファイルディスクリプタのいずれかに対して  F_UNLCK 操作が明示的に実行された場合や、すべ
       てのファイルディスクリプタが 閉じられた場合にも、リースは解放される。

       リースの取得は通常のファイル (regular file) に対してのみ可能である。  非特権プロセスがリー
       スを取得できるのは、UID  (所有者) がプロセスの ファイルシステム UID と一致するファイルに対
       してだけである。 CAP_LEASE  ケーパビリティを持つプロセスは任意のファイルに対してリースを取
       得できる。

       F_GETLEASE (void)
              ファイルディスクリプタ  fd  に対して設定されているリースの種別を取得する。 F_RDLCK,
              F_WRLCK, F_UNLCK のいずれかが返される。 F_RDLCK,  F_WRLCK  はそれぞれ、読み出しリー
              ス、書き込みリースが設定されていることを示し、 F_UNLCK はリースが何も設定されていな
              いことを示す。 arg は無視される。

       あるプロセス ("lease breaker") が F_SETLEASE で設定されたリースと矛  盾するような  open(2)
       や truncate(2) を実行した場合、 そのシステム コールはカーネルによって停止され、 カーネルは
       lease holder にシグナル (デフォルトでは SIGIO) を送って通知を行う。 lease holder  はこのシ
       グ  ナルを受信したときにはきちんと対応すべきである。 具体的には、別のプロセ スがそのファイ
       ルにアクセスするための準備として 必要な後片付け (例えば、 キャッシュされたバッファのフラッ
       シュ) を すべて行ってから、そのファイル のリースの削除または格下げを行う。リースを削除をす
       るには、 argF_UNLCK を指定して F_SETLEASE を実行する。lease holder がファイル に書き込
       みリースを保持していて、 lease breaker が読み出し用にそのファイ ルをオープンしている場合、
       lease holder が保持しているリースを読み出し リースに格下げすれば  十分である。これをするに
       は、 argF_RDLCK を指定して F_SETLEASE を実行する。

       If  the  lease  holder fails to downgrade or remove the lease within the number of seconds
       specified in /proc/sys/fs/lease-break-time, then the kernel forcibly removes or downgrades
       the lease holder's lease.

       いったん lease break が開始されると、 lease holder が自発的にそのリース の格下げか削除を行
       うか、lease  break  timer  の満了後にカーネルが強制的に   リースの格下げか削除を行うまで、
       F_GETLEASE  は対象となるリースの型を  返す  (リースの型は  F_RDLCKF_UNLCK のどちらであ
       り、lease breaker と互換性のある型となる)。

       一度リースの削除か格下げが自発的もしくは強制的に行われると、 lease breaker  がまだシステム
       コールを再開していない場合には、  カーネルが  lease breaker のシステムコールの続行を許可す
       る。

       lease breaker が実行した open(2)  や truncate(2)  が停止中にシグナルハンドラにより中断され
       た場合、  そのシステムコールは EINTR エラーで失敗するが、上で述べた他の処理は そのまま行わ
       れる。 open(2)  や truncate(2)  が停止中に lease breaker  がシグナルにより  kill  された場
       合、   上で述べた他の処理はそのまま行われる。   lease   breaker   が  open(2)   を呼ぶ際に
       O_NONBLOCK フラグを指定した場合、そのシステムコールは  EWOULDBLOCK  エラーで直ちに失敗する
       が、上で述べた他の処理はそのまま行われる。

       lease holder への通知に使われるデフォルトのシグナルは SIGIO だが、 fcntl()  の F_SETSIG コ
       マンドで変更することができる。  F_SETSIG  コマンドが実行され  (SIGIO  を指定された場合も含
       む)、 SA_SIGINFO フラグ付きでシグナルハンドラが設定されている場合には、 ハンドラの第二引き
       数として siginfo_t 構造体が渡され、この引き数の si_fd フィールドには別のプロセスがアクセス
       したリース設定済みファイルの  ディスクリプタが入っている (この機能は複数のファイルに対して
       リースを設定する場合に有用である)。

   ファイルやディレクトリの変更の通知 (dnotify)
       F_NOTIFY (int)
              (Linux 2.4 以降)  fd で参照されるディレクトリか、その中にあるファイルに変更があった
              場合に  通知を行う。どのイベントを通知するかは  arg で指定する。 arg はビットマスク
              で、以下のビットの 0個以上の論理和をとったものを指定する。

              DN_ACCESS   ファイルへのアクセスがあった (read, pread, readv)
              DN_MODIFY   ファイルの内容が変更された   (write,    pwrite,    writev,    truncate,
                          ftruncate).
              DN_CREATE   ファイルが作成された   (open,   creat,  mknod,  mkdir,  link,  symlink,
                          rename).
              DN_DELETE   ファイルが削除 (unlink) された  (unlink,  別のディレクトリへの  rename,
                          rmdir)
              DN_RENAME   ディレクトリ内でのファイル名の変更があった (rename)
              DN_ATTRIB   ファイル属性が変更された (chown, chmod, utime[s])

              (上記の定義を利用するには、どの          ヘッダファイルをインクルードするより前に、
              _GNU_SOURCE 機能検査マクロを定義しなければならない。)

              ディレクトリの変更通知は通常「一回限り (one-shot)」であり、  アプリケーション側でそ
              の後さらに通知を受信したい場合は  再登録しなければならない。 argDN_MULTISHOT が
              含まれていた場合には、 変更通知は明示的に解除されるまで有効状態が継続する。

              F_NOTIFY 要求は積算されていく。つまり、 arg  で指定されたイベントがすでにモニタされ
              ている  イベント集合に加算される形になる。 すべてのイベントの通知を無効にするには、
              arg に 0 を指定して F_NOTIFY を呼び出す必要がある。

              通知はシグナルの配送で行われる。 デフォルトのシグナルは SIGIO  だが、  fcntl()   の
              F_SETSIG コマンドで変更することができる。 後者の場合には、 (SA_SIGINFO フラグ付きで
              シグナルハンドラが設定されている場合には) ハンドラの第二引き数として siginfo_t 構造
              体が渡され、この構造体の si_fd フィールドには通知の行われたファイルディスクリプタが
              入っている (この機能は複数のディレクトリに対して通知を設定する場合に有用である)。

              特に DN_MULTISHOT を使う場合は、通知にはリアルタイムシグナルを使うべきである。 それ
              は、リアルタイムシグナルを使うことで、複数の通知をキューに入れる ことができるからで
              ある。

              注意: 新しくアプリケーションを書く際には、(カーネル 2.6.13  以降で利用可能となった)
              inotify インタフェースを使用すべきである。 inotify はファイルシステムイベントの通知
              を取得するための ずっと優れたインタフェースである。 inotify(7)  を参照。

   パイプの容量の変更
       F_SETPIPE_SZ (int; Linux 2.6.35 以降)
              fd が参照するパイプの容量を少なくとも arg バイトに変更する。 非特権プロセスは、パイ
              プの容量として、  システムのページサイズと  /proc/sys/fs/pipe-max-size で定義される
              上限値 (proc(5) 参照) の間の任意の値を設定できる。 パイプの容量をページサイズよりも
              小さな値に設定しようとした場合は、  暗黙のうちにページサイズに切り上げられる。 非特
              権プロセスがパイプの容量を /proc/sys/fs/pipe-max-size で定義 された上限より大きな値
              に設定しようとした場合は、エラー  EPERM が 発生する。特権プロセス (CAP_SYS_RESOURCE
              ケーパビリティを持つ プロセス) はこの上限を上書きできる。  パイプにバッファを割り当
              てる場合、実装側の都合に応じて、  カーネルは  arg  よりも大きな容量を割り当ててもよ
              い。 F_GETPIPE_SZ 操作では実際に使用されている大きさが返される。 パイプの容量を現在
              データを格納するのに使用されているバッファの     サイズよりも小さくしようとした場合
              は、エラー EBUSY が発生する。

       F_GETPIPE_SZ (void; Linux 2.6.35 以降)
              fd が参照するパイプの容量を (関数の結果として) 返す。

返り値

       成功した場合の返り値は操作の種類により違う:

       F_DUPFD  新しいディスクリプタを返す。

       F_GETFD  ファイルディスクリプタフラグの値

       F_GETFL  ファイル状態フラグの値

       F_GETLEASE
                ファイルディスクリプタに対して保持されているリースの種別を返す。

       F_GETOWN ディスクリプタの所有者を返す。

       F_GETSIG 読み込みや書き出しが可能になった時に送られるシグナルの値、もしくは 伝統的な SIGIO
                動作の場合にはゼロを返す。

       F_GETPIPE_SZ
                パイプの容量。

       他の全てのコマンド
                0 を返す。

       エラーの時は -1 が返され、 errno に適切な値が設定される。

エラー

       EACCESEAGAIN
              他のプロセスが保持しているロックによって操作が禁止されている。

       EAGAIN そのファイルは他のプロセスによってメモリマップされているため、   操作が禁止されてい
              る。

       EBADF  fd がオープンされたファイルディスクリプタでない。 あるいはコマンドが F_SETLK または
              F_SETLKW  だったが、対象のファイルディスクリプタのオープンモードが 必要となるロック
              の型にマッチしていない。

       EDEADLK
              指定された F_SETLKW コマンドを実行した場合にはデッドロックになることが検出された。

       EFAULT lock が利用可能なアドレス空間の外部にある。

       EINTR  F_SETLKW  コマンドがシグナルにより割り込まれた  (signal(7)   参照)。   F_GETLKF_SETLK  の場合、ロックを確認したり取得したりする前にシグナルによって割り込まれた。
              これはたいていリモートのファイルをロックする場合 (例えば NFS 上でロックする場合) に
              起こる。 しかしローカルでも起こる場合がある。

       EINVAL F_DUPFDで、  arg が負か、もしくは許される最大値よりも大きい。 F_SETSIG の場合、 arg
              が利用可能なシグナル番号ではない。

       EMFILE F_DUPFDで、 プロセスがすでに最大数までファイルディスクリプタをオープンしている。

       ENOLCK オープンされているロックの数が多過ぎて、ロックテーブルがいっぱいである。     または
              remote locking protocol (例えば NFS 上のロック) が失敗した。

       EPERM  追加専用属性が設定されたファイルの O_APPEND フラグをクリアしようと試みた。

準拠

       SVr4,  4.3BSD,  POSIX.1-2001.   POSIX.1-2001  で規定されている操作は、  F_DUPFD,  F_GETFD,
       F_SETFD, F_GETFL, F_SETFL, F_GETLK, F_SETLK, F_SETLKW だけである。

       F_GETOWNF_SETOWN は POSIX.1-2001 で規定されている。 (これら定義するには、  _BSD_SOURCE
       を定義するか、 _XOPEN_SOURCE を 500 以上の値で定義するか、 _POSIX_C_SOURCE を 200809L 以上
       の値で定義すること。)

       F_DUPFD_CLOEXEC は POSIX.1-2008 で規定されている。  (これら定義するには、  _POSIX_C_SOURCE
       を 200809L 以上の値で定義するか、 _XOPEN_SOURCE を 700 以上の値で定義すること。)

       F_GETOWN_EX,   F_SETOWN_EX,  F_SETPIPE_SZ,  F_GETPIPE_SZ,  F_GETSIG,  F_SETSIG,  F_NOTIFY,
       F_GETLEASE, F_SETLEASE は Linux 固有である (これらの定義を有効にするには _GNU_SOURCE  マク
       ロを定義すること)。

注意

       元々の  Linux の fcntl() システムコールは (flock 構造体で) 大きな ファイルオフセットを扱え
       るように設計されていなかった。 その結果、Linux 2.4 で  fcntl64()  システムコールが追加され
       た。  この新しいシステムコールは、ファイルのロックに flock64 という別の 構造体を利用し、こ
       れに対応するコマンドとして F_GETLK64, F_SETLK64, F_SETLKW64 を使用する。 しかし、 glibc を
       使うアプリケーションではこれらの詳細を無視することが  できる。 glibc の fcntl のラッパー関
       数は新しいシステムコールが 利用できる場合はそれを利用するようになっているからである。

       エラーの際の返り値が dup2(2)  と F_DUPFD では異なっている。

       カーネル 2.0 以降では、 flock(2)  と fcntl()  が設定するロック種別の間に相互作用はない。

       システムによっては、   struct   flock    に上記以外のフィールドがあるものもある    (例えば
       l_sysid)。 はっきりと言えることは、ロックを保持しているプロセスが別のマシンに存在 する場合
       には、 l_pid だけはあまり役にたたないだろうということである。

バグ

   F_SETFL
       F_SETFL を使って、 フラグ O_DSYNCO_SYNC の状態を変更することはできない。これらのフラグ
       の状態を変更しようとした場合には、黙って無視される。

   F_GETOWN
       いくつかのアーキテクチャ  (特に i386) における Linux システムコールの慣習 のため以下の制限
       が存在する。 F_GETOWN が返す (負の) プロセスグループID が -1 から  -4095  の範囲に入った場
       合、  glibc  はこの返り値をシステムコールでエラーが起こったと間違って解釈してしまう。 つま
       り、 fcntl() の返り値は -1 となり、 errno には (正の) プロセスグループID  が設定されること
       になる。Linux  固有の  F_GETOWN_EX ではこの問題を回避できる。 glibc バージョン 2.11 以降で
       は、glibc では F_GETOWN_EX を使って F_GETOWN を実装することで、カーネルの F_GETOWN  の問題
       を見えないようにしている。

   F_SETOWN
       Linux 2.4 以前では、非特権プロセスが F_SETOWN を使って、ソケットのファイルディスクリプタの
       所有者に 呼び出し元以外のプロセス (やプロセスグループ) を指定すると 発生するバグがある。こ
       の場合、 呼び出し元が所有者として指定したプロセス (やプロセスグループ) に シグナルを送る許
       可を持っていたとしても、 fcntl()  が -1 を返し errnoEPERM を設定することがある。  この
       エラーが返ったにもかかわらず、ファイルディスクリプタの所有者  は設定され、シグナルはその所
       有者に送られる。

   強制ロック (mandatory locking)
       これまでの Linux の全てのバージョンにおける強制ロックの実装は、 競合条件下で強制ロックが不
       完全になるような場合がある。 ロックと重なって実行された write(2)  の呼び出しは強制ロックが
       獲得された後にもデータを変更することができる。 ロックと重なって実行された read(2)   の呼び
       出しは強制ロックが獲得された後になって行われたデータの変更を 検出することができる。 同様の
       競合条件が強制ロックと mmap(2)  の間にも存在する。それゆえ、強制ロックに頼るのはお薦めでき
       ない。

関連項目

       dup2(2), flock(2), open(2), socket(2), lockf(3), capabilities(7), feature_test_macros(7)

       Linux     カーネルソースの    Documentation/filesystems/    ディレクトリ内の    locks.txt,
       mandatory-locking.txt, dnotify.txt (以前のカーネルでは、これらのファイルは  Documentation/
       ディレクトリ直下にあり、 mandatory-locking.txtmandatory.txt という名前であった)

この文書について

       この  man ページは Linux man-pages プロジェクトのリリース 3.65 の一部 である。プロジェクト
       の説明とバグ報告に関する情報は http://www.kernel.org/doc/man-pages/ に書かれている。